インドネシアの約90%がイスラム教徒です。アラブ諸国に比べ敬虔な信者が多いわけではありませんが、普段お祈りをしないイスラム教徒でも断食はしている人が多いようです。
特に製造業で働く人達はイスラム教徒の方が多いため、ラマダン(断食月)の間は様々な影響をうけやすいです。
本記事では、ラマダンの概要と注意点について紹介します。
《プロフィール | 長野綾子(ながのあやこ)》
インドネシア在住17年。
日本語教師として来イ、その後インドネシア大学BIPA留学。2005年より日系グローバル人材紹介&ビジネスコンサルティング会社にてコンサルタントとして勤務。
ラマダンとは
ラマダン(Ramadan)とは、イスラム教徒の五行の一つ「断食」を行う月のことを言います。五行についてはイスラム教の経典コーランに信仰者の義務と記載されています。イスラム教徒の五行は以下です。
- 信仰の告白(シャハダ):イスラム教に入信・信仰を守ることを誓うこと
- 礼拝(サラート):1日5回を決まった時間に行うこと
- 断食(サウム):1カ月間の断食を行うこと
- 喜捨(ザカート):恵まれない人やモスクなどに施しをすること
- 巡礼(ハッジ):メッカ巡礼。これは一生に1回、経済的に可能な人のみ
断食をする目的
断食を行う目的としては断食を通じ、様々な欲を抑え、信仰心を深めることや恵まれない人々に思いを馳せ喜捨を行う気持ちを持つためという宗教的・精神的な意味と、1年に1回体のデトックス時期という意味があります。
今流行っている16時間断食(オートファジー効果)とほぼ同じ、内臓機能をしっかりと休ませるという健康法です。
そういう意味では心身共に健康を目指す期間とも言えます。
ラマダンの時期
イスラム教が採用しているイスラム歴(太陰暦)の第9の月の30日前後とされています。そのためいつも同じ時期に実施されるわけではなく、毎年10日前後早まることになります。
2022年は4月上旬からでしたが、2023年は3月下旬ぐらいからとなる予定です。いつから断食を開始しレバランがいつになるかは直前にインドネシア宗教省から発表がありますが、1日~2日ずれる可能性があります。
断食をする時間
1ヶ月の間、全く飲食ができないと思われる人が多いのですがそうではなく、日出から日没までの間のみ飲食をしないというルールです。
つまり日が沈んでいる間の飲食は自由にできます。日の出前の礼拝は日常的に行っていますが、その日の出前の礼拝時間までに食事(サフール)を済ませる必要があるため、午前3時ぐらいになると「サフール、サフール」という放送がモスクから流れ、時には太鼓をたたいて人々に知らせます。
その後、飲食を断ち4回目の日の入り礼拝が終わって飲食を再開します。この時期は夜中・早朝のモスクの声に悩まされる日本人も多いようです。
礼拝の時間も日々変わっていきますし、日の出・日の入りは国により異なりますので一概には言えませんが、インドネシアおおよそ15~16時間の断食(日の出前の食事が午前3~4時の間、日没後の食事は午後18時前後)となります。
断食のルール
断食を義務とされている人・免除される人は以下です。
- 体が成長期を迎えている子供(基準:女性は初潮、男性は精通を迎えている)
- 健康であること
- 高齢者・病人・妊婦・授乳中、生理中・旅行中は断食免除
子供は7歳~8歳ぐらいから半日断食などから練習を始めることが多いです。断食をしている途中で体調が悪くなったり、女性の場合生理になってしまったらその日の断食を中断することになります。
ただ、生理中の人や旅行中の人は断食を休んだ日数を次の断食月までの間のどこかで実施する必要があります。
断食期間(時間)中に禁止されていること
あらゆる欲・煩悩を抑えるという意味で、飲食だけでなく喫煙、性行為、悪口を言ったり喧嘩(怒る)も禁止されています。
守れなかった人は断食を中断し他の日に再度断食を行う必要があります。
断食明けの食事
断食の終わりを知らせる4回目のお祈りの音(アザーン)がなると、まず水を飲み、その後甘い物を口にする人が多いです。
特に、デーツ(ナツメヤシ)は断食明けに食べるとよいとされています。そのほか、ココナツミルクと黒糖で作られたおしるこのようなコラック、フルーツポンチのような飲み物も断食明けの定番のスイーツです。
ラマダンの仕事への影響と注意点
ラマダン期間中も普段通りに仕事をすることになりますが、イスラム教徒が多い会社や日本人を含め断食をしない人の注意点があります。
勤務時間の変更
イスラム教徒以外の宗教の人や外国人が多い会社は、通常通りの営業時間ということもありますが、特にイスラム教徒が多い製造業では、ラマダン期間中は始業時間を早め終業時間を早める、もしくは昼休みの時間を30分短縮し帰宅時間を早めるという配慮をする会社も増えます。
断食時間中の過ごし方
サフール(断食開始前の食事)をとってから出勤時間まで仮眠する人もいますが、通勤に時間がかかる人、会社の勤務開始時間が早まっている場合はそのまま起きている人もいます。
そのため、この時期は睡眠不足になる人も多く休憩時間には仮眠をとったりモスクでお祈りをしてゆっくりと時間を過ごす人が多いです。
業務に支障が出るほどではないとはいえ、空腹や睡眠不足で集中力が落ちることもあり特に会社送迎車やタクシーに乗車の際は注意が必要です。
残業と交通渋滞
ラマダン中は家族や親戚・友人・会社の仲間と一緒に断食明けの食事を一緒にするという習慣があり(インドネシア語でブカプアサブルサマ・Buka Puasa Bersama)15時半時~17時半ぐらいになると慌てて帰宅する人が増え交通渋滞がひどくなります。
当然残業をしない人が多いので、締め切りがある仕事が終わっていないのに慌てて帰宅してしまう人もいます。
なるべく業務時間内に、業務が終わるよう早め早めに指示を出し、進捗の確認をする必要があります。
断食をしている人への配慮
断食をしていない人やイスラム教徒以外は通常通り食事をしますが、この時期は人前での飲食をしないように心がける・配慮が必要です。
レストランやカフェなどにも食事している人が見えないようカーテンがされたり、半分入口のシャッターを下していたりしています。
また、朝昼は休業・夕方から営業を開始するレストランもあります。普段お酒を提供しているレストランもアルコールの提供を停止したり、日本食レストランではこの時期だけ湯呑でビールやお酒が配膳されます。
また、ホテル以外のバーやパブのようなところは完全に休業するところも出てきます。肌の露出を避けられない(従業員が断食をして体力的に辛いという理由もありそうですが)マッサージやスパなども休業するところがあります。
1年で一番長いレバラン休暇
金融機関・サービス業は2日~4日の休みですが、製造業は従業員のほとんどがイスラム教徒で地方出身の人が多いため、この時期に長期休暇を取り田舎に規制するため製造を停止する会社も増えます。
製造業の場合、製品を納め先企業の都合により休暇期間を決定しますが休暇中にも製品を納める必要がある場合はラマダンの時期にいつもより多めに在庫を製造する必要があり忙しくなるという傾向もあります。
日本人駐在員もレバラン休暇は日本へ一時帰国する人も多いです。
ラマダン時期の消費活動
「昼間外食をする人が減るので経済的に打撃を受けるのでは」と思う方もいらっしゃると思いますが、実はこのレバラン時期の消費活動量は年間で一番多いとされています。
レバランの1カ月~2週間前にTHRボーナス(最低1カ月給与分の固定ボーナスを支払う義務があります)が支給されることと、レバラン用に新しい服を購入したり、贈答品(お歳暮のような感じ)を買って会社間やお世話になった人達に贈りあったり、夜の外食の回数がいつもより多くまた食事内容も豪華になります。
この時期が、掻き入れ時となるモール、小売店、ECサイトでも大規模な割引セールを実施し、レストランやホテルなどもラマダンブッフェやグループ会食での割引をして集客をします。
ラマダンの時期はレストランは、予約しないと入れないことがほとんどなので事前に予約・確認をした方がよいでしょう。
まとめ
日本人には馴染みのないラマダン(断食月)ですが、その意味やルールをちゃんと知るとさほど驚くことはなくなります。
インドネシアで働く限り避けては通れないイスラム教の宗教行事の一つですのでこの記事が参考になれば幸いです。
ラマダン時期中、会社の部下や仲間から断食明けの食事会(Buka Puasa Bersama)に誘われることがあります。自分が断食をしていなくても積極的に食事会に参加し、宗教に理解を示し、社員との交流を深めることも大切です。