インドネシアには公的に認められた宗教が6つあり、インドネシア国民はいずれかを信仰する義務があります。
一方、日本では初詣、バレンタイン、ハロウィン、七五三、クリスマスなどに同じ人が参加していても違和感がないのではないでしょうか。
インドネシアでは事情が全く異なります。
この記事ではインドネシアの6つの宗教をかんたんに解説し、イスラム教にまつわる体験談を紹介します。
《 プロフィール | サト 》
日本語教師。学生時代にインドネシア語を専攻し、留学も経験。2011年にはスマトラのプカンバルという町で日本語学校を設立。インドネシア情報を発信する「さとたす」というブログも運営中。
インドネシアの6つの宗教
インドネシアで公的に認められている宗教は、次の6つです。
- イスラム教
- キリスト教(プロテスタント)
- キリスト教(カトリック)
- ヒンドゥー教
- 仏教
- 儒教
上記6つに加え、宗教省公式サイトのアーカイブには「その他の信仰」もデータにありました。こちらはアニミズムなどだと思われます。
それぞれの信者数をグラフにすると、次のとおりです。
※儒教(0.03%)とその他の信仰(0.04%)は数が小さく、グラフにうまく表示できませんでした。
イスラム教が圧倒的多数ですね。インドネシアの人口は世界で4番目に多く、イスラム教徒の人口が世界でいちばん多い国でもあります。
インドネシア国民は6つの宗教のいずれかを信仰する義務があり、身分証明書にも宗教が記載されます。
各宗教とも1年に1日は祝日があり、信仰している宗教に関係なく休みになります。信者数を反映してか、イスラム教の祝日が圧倒的に多くなっています。2022年で言うと、次のとおりです。
宗教名 | 祝日の日数(2022年) |
イスラム教 | 6 |
キリスト教 | 3 |
ヒンドゥー教 | 1 |
仏教 | 1 |
儒教 | 1 |
イスラム教にまつわる体験談
ここでは、イスラム教にまつわるわたしの体験談を、次の4つのトピックに絞って紹介します。
- お祈り
- アルコール
- ジルバブ
- 断食
では、「お祈り」からどうぞ。
お祈り
イスラム教徒は、1日に5回お祈りをすることになっています。
お祈りの時間は日の出や日没の時間などをもとにして決まるので、地域によって違いますし、同じ地域でも日によって変わってきます。
たとえば、2022年11月20日のお祈りの時間は次のとおり。東京、ジャカルタと、スマトラのプカンバルの時間を調べてみました。プカンバルは、わたしが日本語学校を運営している町です。
東京 | ジャカルタ | プカンバル | |
1回目 | 04:53 | 04:05 | 04:38 |
2回目 | 11:27 | 11:42 | 12:03 |
3回目 | 14:12 | 15:04 | 15:26 |
4回目 | 16:33 | 17:54 | 18:06 |
5回目 | 17:55 | 19:07 | 19:18 |
東京とジャカルタはもちろんですが、同じインドネシア国内でも時間が微妙に違っています。
わたしはプカンバルで日本語学校を設立する際、授業の時間を決めるのにお祈りの時間を参考にしました。
お祈りは、基本的に次のお祈りの時間までに行うことになっています。特に4回目と5回目の間はあまり時間がないので、4回目の時間に授業をするのは絶対避けるようにとのアドバイスをもらった記憶があります。
アルコール
イスラム教徒はアルコールを口にしてはいけないことになっています。
イスラム教徒の同僚が日本に来た際、ノンアルコールビールを「おいしい」と言いながら飲んでいましたが、さすがにアルコール入りのビールを口にすることはありませんでした。
※ノンアルコールビールをイスラム教徒全員が受け入れるかどうかはわかりません。
また、インドネシアでは2015年4月15日に「禁酒法」が施行され、小規模の小売店舗ではアルコールの販売が禁止されました。
コンビニからビールが姿を消し、当時は在留邦人(主にジャカルタの方々)の悲鳴がSNS上に流れていたのを覚えています。
と言っても小規模ではない店では手に入っていたようで、2017年に友人宅を訪れた際には、スーパーで買ったというワインで乾杯しました。
「禁酒法」が施行された当時に再びさかのぼると、わたしはジャカルタではなく、スマトラのプカンバルにいました。
コンビニでビールが買えなくなったのは、プカンバルも例外ではありません。とは言えスーパーではビールを継続して販売していましたし、ホテルではワインなども含めたアルコールも口にすることができました。
一方、2014年にカリマンタンのバンジャルマシンという街を訪れた際は、アルコールはコンビニ・スーパー問わず目にすることができず。ホテルでやっとビールにありつけてホッとしたのを覚えています。
2014年ということは、「禁酒法」施行の前。アルコールが手に入るかどうかは、地方によっても違ってくるようです。
ジルバブ
イスラム教徒の女性が、髪などを覆うために着用しているスカーフを「ジルバブ」と言います。他にも「ヒジャブ」など呼び方はあるのですが、わたしが一番よく耳にするのは「ジルバブ」です。
わたしが日本語学校を運営しているプカンバルという町は、ジャカルタなどの大都市と比べ、イスラム色が強い印象。それを反映してか、ジルバブ着用率も高いと感じています。
わたしは以前、国立大学の教育学部で仕事をしていました。1クラスに学生が50名いれば45名はイスラム教、うち40名が女性で、ジルバブを着用しない学生は1-2名といったところでした。
国立大学で、しかも教員を養成する学部なので服装の規定は厳しかったのでしょうが、それでもジルバブの着用率がほぼ100%だったわけです。
ショッピングモールなどを歩いていても、ジャカルタに比べてはるかにジルバブ着用率が高い印象でした。
統計を見ると、ジャカルタもプカンバルもイスラム教徒の比率は84%程度でさほど変わりません。2018年の数字で、次のようになっています。
イスラム教徒の比率(2022年6月現在)
ジャカルタ | 83.8% |
プカンバル | 84.5% |
ジルバブに対する意識の違いがあるのでしょう。
断食
ラマダン(断食月)の間、イスラム教徒は日の出から日没まで断食をすることになっています。食べ物はもちろん、水すら口にできません。
インドネシアの食品大手に勤めている知り合いによると、ラマダン中の売上はいつもよりアップするとのことでした。昼に食べない分、日没後に食べまくるのと、あとはラマダン明けのギフトなどで売上が上がるのではないかと想像しています。
ちなみに毎日の断食明けを家族や友人と店で行う光景もよく見かけるのですが、そのときは断食明けの1時間も前からテーブルに座り、じっと待っている姿がありました。
料理は断食明け前には準備しないといけないのですが、料理したのがイスラム教徒なら味見はできません。なのでこの時期、料理の味が微妙な場合、「断食してるから仕方ない」という「ラマダンジョーク」もよく耳にします。
わたしはインドネシアに留学していたときに断食を試したことがあります。早朝、まだ暗い時間に叩き起こされて軽く食事を取り、再び就寝。大学に行くためにまた起きたらすでにお腹が空いていました。
「これで日没まで過ごすのか……」と絶望しつつも、その日は何とか耐え抜いたわたし。授業が午前中で終わるのも幸いしました。ただ1か月も続けるのはムリだと思い、以後、断食をしたことは1度もありません。
今は日本語教師としてインドネシアに関わっています。断食については学生が「断食しているからと言って授業に集中できないとか、そんな言い訳はできない」と言っていたのが印象的です。
でも、正直、目がうつろな学生や、しんどそうな学生が多い印象でした。飲み食いしないので当然ですよね……。
また、以前勤めていた職場では、同僚の先生方は全員イスラム教でした。
ラマダンの間、先生方は気を使って「いつでもどこでも食べていただいて問題ありません」と言ってくださっていたのですが、さすがに職員室で飲食することはできず。誰もいないタイミングを見計らって水を飲んでいました。
まとめ
この記事ではインドネシアの6つの宗教をかんたんに解説し、イスラム教にまつわる体験談を紹介しました。
インドネシアの宗教を理解する一助になれば幸いです!