英語をはじめ、たくさんの外国語や地方言語が話されているインドネシア。親日国としても知られているインドネシアですが、日本語教育はどのような成果を上げているのでしょうか?本記事では、インドネシアにおける日本語教育ついてご紹介します。
《プロフィール | さのゆうき》
インドネシア在住歴17年。外資系ホテルでゲストリレーションズとして勤務した後、フリーランスのライターおよび翻訳家に転身。 Webメディアはもちろん、紙媒体の仕事も請負っている。インドネシア語は第二の母国語。
日本語教育に熱心なインドネシア
世界中で行われている日本語教育ですが、インドネシアではどうでしょうか?まずは、2021年度「海外日本語教育機関調査」をもとに、世界におけるインドネシアの日本語教育事情を紐解きます。
世界の日本語学習者数は?
国際文化交流事業を行っている独立行政法人国際交流基金(The Japan Foundation)が実施した、2021年度「海外日本語教育機関調査」によると、世界には約380万人(3,794,714人)もの日本語学習者がいることが明らかになりました。
2018年度の調査結果では約385万人でしたから、日本語学習者の数はここ数年で5万人ほど減少したことに。
とはいえ、内閣府の「クールジャパン戦略」が功を奏しているのか、アニメやマンガなど日本特有のコンテンツは世界中の若者に人気で、一説では3億人近い潜在ファンがいるとされています。
その証拠に、外務省は日本を含めた世界の国の数を196ヶ国としていますが、国際交流基金の調査の結果、世界の約70%を超える国や地域で日本語教育が実施されていることが判明しました。
このことから、日本語を学びたいと願っている人が、世界中にまだ大勢いることがわかるのではないでしょうか。
日本語教育が進んでいる国インドネシア
日本語学習者が多いのは東アジアと東南アジアですが、それらの国々の中でも、インドネシアはとくに熱心な日本語学習者がいる国のひとつです。
2021年度「海外日本語教育機関調査」によると、韓国・台湾・中国・香港・マカオ・モンゴルを含む東アジアの日本語学習者数は、約170万人(1,713,833人)なのに対し、インドネシア・カンボジア・シンガポール・タイ・東ティモール・フィリピン・ブルネイ・ベトナム・マレーシア・ミャンマー・ラオスといった東南アジアにおける日本語学習者数は約120万人(1,185,375人)でした。
国の数と学習者の数だけを比較して見ると、東アジアのほうが圧倒的に日本語の学習に熱心な印象を受けます。
ところが、東南アジアの国のひとつであるインドネシアでは、初等教育から日本語教育に取り組んでいる教育機関が多く、日本語学習者の数が一番多い中国と比べても、小学校における日本語教育の点ではるかに進んでいるといえます。
インドネシアにおける日本語学習者数
2021年度「海外日本語教育機関調査」によると、インドネシアにおける日本語学習者数は、約71万人(711,732)でした。
その内訳をみると、現在わかっているだけでも31の教育機関で、6,786人の小学生たちが日本語を学んでいるとのこと。
中学校になるとその数はもっとも多くなり、2,275の教育機関で642,605人もの中学生が、日本語を勉強しています。
高等学校では164の教育機関で27,454人が、さらには日本語会話教室などにおいて34,887人が日本語教育を受けています。
インドネシアでは、小学校と中学校が義務教育期間に当たりますが、日本語学習者の数はこのボリュームゾーンに一番多いことがわかります。
ところで、インドネシアでは教育機関以外で日本語を学ぶ人も少なくありません。
日本語が必修ではない学校に通っている(もしくは通っていた)人たちの間には、テレビや動画を通して日本語を学んでいる人もいます。
また、インドネシアに住む日本人たちとの交流を通して、直接日本語を学習している人もいるようです。
興味深いことに、義務教育の間に学校などの教育機関で日本語を勉強した人たちよりも、独学で日本語を勉強した人のほうが流暢な日本語を話す場合もめずらしくありません。
インドネシア人への日本語教育は難しい?
日本語学習者の数が多いインドネシアですが、実際に日本語を話せる人はどれくらい多いのでしょうか?
インドネシア人の日本語能力
学生時代に日本語を学んだ人が多いとはいえ、インドネシア人の日本語能力はピンキリです。
学校で英語を学習するほとんどの日本人が英語を流暢には話せないのと同様に、インドネシアでも学校で学んだとはいえ、ほとんどの人が日本語を流暢には話せません。
小学校や中学校で習う日本語は、簡単なあいさつから日常会話程度。授業で日本語の文法を学ぶこともありますが、学校ごとに日本語教師の質に差があるため、日本語の文法を完璧に習得することは難しいようです。
ですが、日本語を熱心に学習している人の中には、日本語能力試験を受ける人も多くいます。そのため、日本語に堪能なインドネシア人であるかどうかを見極めたいときには、資格の有無を尋ねてみると良いかもしれません。
大学に通ったり、働いたりする目的で日本を訪れるインドネシア人の多くはNat Test(Nihongo Achievement Test)、もしくはJLPT(Japanese Language Proficiency Test)と呼ばれる日本語試験を受けるのが一般的です。
試験はいずれもリスニングやリーディング、文法問題などが提出されます。Nat Testも JLPTの場合も評価は5段階にレベル分けされており、レベル1がもっとも日本語能力が高く、レベル5がもっとも日本語能力が低いとされています。
Nat Testが1年の間に6回試験を実施しているのに対し、 JLPTは1年に2回しか実施していません。日本の大学に通うのであれば、 JLPTのレベル1かレベル2の取得が必須です。
ほかにも、 JTEST(Jitsuyou Nihongo Kentei)やEJU(Examination for Japanese University Admission for International Students)などの試験がありますが、 日本の大学に通うのに欠かせないEJUの有効期限は2年となっています。
言語センスが良い人が多いインドネシア
学校で学習する日本語があまり役に立たないとはいえ、インドネシア人の日本語取得のポテンシャルは大きいといえます。
その理由として、インドネシアの使用言語の多さが挙げられるでしょう。インドネシアでは公用語以外にも島や地域ごとに使用されている言語が存在しており、スンダ語やバリ語、マラン語やサブ語など、700以上もの言語が使用されています。
そのため、公用語であるインドネシア語以外にも、出身地域や居住地域の言語を話す人も多く、2つ以上の言語を上手に操って暮らしている人も少なくありません。
言語学では、多くの言語を習得するほど、言語習得へのハードルが低くなるといわれています。
ですから、多言語使用者であるインドネシア人は本来言語センスが良い人が多く、まじめに取り組めば日本語習得も夢ではありません。
また、インドネシアには日本に興味を持っている人も多く、彼らのコミュニケーション上手でフレンドリーな国民性も日本語を学習する際には大いに助けになると言えるでしょう。
まとめ
日本語学習者の数が多いインドネシアですが、学習者すべてが日本語を流暢に話したり、書いたりできる訳ではありません。
しかしながら、日本に好意的な人々は多く、日本の大学への進学や日本企業での就労、日本と関わる仕事に就きたいと願っている人は大勢います。
外国語の中でも、文法構造が異なる言語を学ぶのは難しいとされていますが、普段から多言語を使用する環境で暮らしているインドネシアの人々であれば、日本語を習得できる可能性が大きいと言えるでしょう。